真野俊樹―医師の海外流出

――中央大学 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
  多摩大学大学院特任教授 医師――

医師の海外流出

前回記事に記載したように、1部の海外の国ではプライマリケアの医師について、勤務のハードルを下げている。では、専門医はどうか。

一説には、日本での待遇が悪く海外に流出するという話もある。

現状も含め、確認してみよう。ここでは、専門医の代表ともいえる心臓外科医にフォーカスしたい。

時系列で「米国心臓外科医」を確認する

「心臓外科医海外流出」(福原進一 医学会新聞 2018年5月14日)によれば、米国で活躍している日本人の心臓外科専門医は数十人規模におよび、実際に臨床に従事している日本人医師は2017年時点で少なくとも74人いるとされている(1)

この記事には、次のことが記載されている。

「米国で活躍するある日本人外科医より興味深いリストを見せてもらった。現在米国で臨床に従事する日本人心臓外科医のリストだ。2017年時点で74人である。そのほとんどが成人心臓外科を専門とする,卒後8~20年ほどの医師だ。さらに,カナダやヨーロッパでも多くの日本人心臓外科医が臨床に従事している。約1500人の専門医を有する規模の診療科でこれほどの数が海外にいるのは,正常ではない」。

ちなみに、2025年3月現在、認定中の心臓血管外科専門医は2578名である(2)

一方、2020年に、日本心臓血管外科専門医認定機構(JBCVS)の認定を受けた日本人外科医のうち、約40名が米国でアテンディングフィジシャン(指導医レベル)として勤務しているとされる(3)。2017年の数字と2022年の基準が同じかどうかわからないが、急激な変化は起きていないと考えていいであろう。

米国の様子

前回、カナダの専門医の様子を少しふれたが、米国の心臓外科における国際医学部卒業生(IMG)全体の動向はどうか。米国の心臓外科分野では、過去10年間で全専門分野の中で最も急速にIMGの割合が減少しており、現在は心臓外科医の20%をIMGが占めている(4)

これは全医療分野の平均(25%)よりも低い水準である。また、あくまで総論だが、日本人医学部卒業生は、言語的距離が大きく、米国での研修を目指す文化が乏しいため、他国のIMGと比較してより大きな障壁に直面しているといわれる(3)

さらに、 J-1ビザの制限(7年間の制限と2年間の本国帰国義務)が、長期的なキャリア形成の妨げになっており、IMGの研修マッチング率は51%で、米国医学部卒業生より35%低い(5)

トランプ政権

もとよりトランプ政権は、流入についてきびしい。具体的には次のことが行われた。

●2025年5月:J-1ビザ面接の一時停止

5月27日、国務省が大使館・領事館に対してJ-1、F-1、M-1ビザ申請者の面接予約を一時停止するよう指示した。この停止はJ-1ビザで米国に来る予定の医師にも適用された。6月18日にビザ申請の一時停止が解除され、J-1医師のビザ面接予約が優先されることになった。

●2025年6月:12カ国からの入国禁止

6月4日、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、エリトリア、リビア、ソマリア、スーダン、アフガニスタン、ミャンマー、ハイチ、イラン、イエ National Resident Matching Programメンの12カ国からの入国が禁止され、ブルンジ、キューバ、ラオス、シエラレオネ、トーゴ、トルクメニスタン、ベネズエラからの入国も部分的に制限された。2025年は6,600人以上の非米国市民の医師がレジデンシープログラムにマッチングしたが、多くがビザ取得に苦労し、7月1日の研修開始に間に合わない状況が発生した NBC News

●2025年9月:H-1Bビザ10万ドル手数料

9月19日、トランプ大統領はH-1Bビザ保持者を雇用する企業に対し、初回申請時に10万ドルの手数料を支払うことを命じる大統領令を発出した(従来は2,000〜5,000ドル) AMA(American Medical Association)など50以上の医療団体が国土安全保障省に対し、IMGをこの手数料から免除するよう要請する書簡を送付した。米国は2036年までに最大86,000人の医師不足に直面する可能性があると強調している。大統領令では、国土安全保障長官が「国益にかない、国家の安全や福祉を脅かさない」と判断した場合、特定の業界について10万ドルの手数料を免除できると規定されている。

こういった状況に対して、米国で診療している医師の4人に1人はIMGであり、彼らは医療過疎地域や貧困地域で診療する傾向が高く、プライマリケアなど人手不足の専門分野の研修ポジションを埋めている(6)

日本人心臓外科医への影響については、日本は入国禁止対象国ではない。しかし、H-1Bビザの10万ドル手数料は日本人IMGにも適用される可能性があり、病院が日本人医師を雇用するコストが大幅に上昇する恐れがある。ただし、多くのIMGはJ-1ビザを使用しており、J-1ビザには現時点でこの手数料は適用されていない。

ただ、いずれにせよ不透明な状況であることは確かだ。

日本での心臓外科医の様子

こちらは私は専門医ではないので簡単に記載するにとどめるが、日本心臓血管外科専門医認定機構(JBCVS)の研修修了者数は明確な減少傾向を示しており、2016年の183人から2019年には133人まで減少している(3)。年間約10〜15%のペースで減少していることになり、この背景には以下の要因がありそうだ。

日本国内の構造的問題

•日本では心臓外科医が慢性的に過剰供給状態にあり、多くの心臓外科医が十分な手術機会を得られていない(7)

•人口減少に伴い、将来的に心臓外科手術件数も減少すると予測されている。

•他の診療科に比べて忙しい。

まとめ

こういった状況であり、今回は心臓外科医が米国に流出というケースで調べたが、おそらく、他の専門医でも同じような状況があると思われ、大きく日本の専門医が、海外に流出している、あるいは今後、急速に流出するかどうかはわからない。

しかし、医学教育の国際化は進み、米国のUSMLE対策、帰国子女の増加による英語力の向上など、徐々に医師が国外に流出する可能性は高まっていく傾向はあるかもしれない。