橋本岳×小黒一正 「医療費抑制」から「医療体制維持」へ――インフレ下の社会保障と財政ルール

物価上昇率が3%前後で定着する一方で、診療報酬や薬価の改定率は微増にとどまり、多くの病院や診療所が赤字に追い込まれている。このような状況のなか、2026年の診療報酬改定では本体が3.09%、薬価がマイナス0.87%と決まったが、インフレは今後も継続する可能性も高い。また、診療所の減少が進む地方では、医療提供体制そのものも揺らぎ始めている。インフレが常態化するなかで、物価上昇に満たない医療費や薬剤費の伸びは、実質的なカットとなる可能性もあるが、現行の枠組みは持続可能なのか。

名目GDP成長率に医療費の伸びを連動させる「医療版成長率調整メカニズム」と、保険料率を固定したうえで地域医療を守る方策について、橋本岳・前衆議院議員と小黒一正・法政大学教授が議論した。

プロフィール

橋本岳:岡山県出身。前衆議院議員(5期)。厚生労働副大臣、厚生労働大臣政務官などを歴任し、社会保障・医療政策を中心に実務を担ってきた。地元岡山では、地域医療の維持支援に携わり、地方の病院・診療所の現場課題に詳しい。中央と地方、制度と現場双方を知る視点から、インフレ下の医療財政・医療提供体制について提言を続けている。

小黒一正:政策メディア会長、法政大学経済学部教授。人口動態と財政・社会保障の関係や世代間問題を専門とする。財務省や財務総合政策研究所主任研究官など政府での実務経験も持ち、社会保障とマクロ経済の関係もテーマに研究・提言を行う。近年は、中長期的な名目GDP成長率と医療費の伸びを連動させる「医療費成長率調整メカニズム」(別称「医療版マクロ経済スライド」)を提案する等、インフレ下の医療財政の在り方に関する議論も主導している。

インフレ定着と医療財政――何が本当の課題なのか

小黒 医療業界、製薬業界は、インフレの直撃を受けています。直近もインフレ率は3%前後で推移し、2%を超える状態が40ヶ月以上続いています。その一方で、診療報酬や薬価の改定はインフレ率に追いついていません。橋本先生は、厚労行政に携われ、また地元岡山では地域医療についてご覧になられてきましたが、現状をどのようにお考えですか。

橋本 おっしゃるように、インフレは実際に起こっている。40ヶ月以上インフレが続いている、つまり3~4年にわたってインフレが常態化している状況だと認識しています。

当然ながら医療でも介護でも事業を運営するにあたり、コストはインフレの影響によって増えています。他方で診療報酬改定の議論では、これまでは0.5%とか、せいぜい1%程度しか上がってこない。インフレ率と比べると、著しく見劣りする水準の話をしているに過ぎません。当然ながらインフレによるコスト上昇を埋め合わせることになっていません。

インフレが始まる前、政府の方針は社会保障費全体の伸びを、高齢化の伸びの枠内に抑えるというものでした。この間、骨太の方針で表現が変わることもありましたが、そもそもインフレに対応するという方針になっていません。

結果として医療機関の経営に物価高が重くのしかかり、総合病院の7割が赤字に陥り、診療所でも赤字を抱えるところが増えてきました。この問題は、早急に具体的な案を示し、対応しなければならない問題だと思います。

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