真野俊樹―OTC類似薬保険収載をめぐる論争とイメージ

――中央大学 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
  多摩大学大学院特任教授 医師――

今回は、最近話題になっているOTC類似薬の保険非収載について、いままででの流れを整理し、最後に、医師に受診することについて個人的な体験をお伝えしたい。

概要

OTC類似薬とは、市販薬(OTC医薬品)と同様の成分・効能を持ちながら、医師の処方箋が必要な医療用医薬品を指す。現在、これらの薬剤を公的医療保険の適用対象から除外するかをめぐって激しい論争が展開されている。具体的には風邪薬、湿布薬、胃腸薬、目薬、ビタミン剤、漢方薬などが対象となっており、その市場規模は約1兆円、対象品目は約7000種類に及ぶとされる。

論争の発端は2025年2月、日本維新の会が現役世代の社会保険料負担軽減を目的として、OTC類似薬の保険適用除外を自民・公明両党に提案したことにある。維新の会は「年間4兆円の医療費削減により、1人当たり年間6万円の社会保険料軽減が可能」と主張した。

これを受けて6月11日、自民・公明・日本維新の会の3党がOTC類似薬の保険適用見直しに合意。その後6月13日に閣議決定された「骨太方針2025」において、「2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現可能なものについて令和8年度(2026年度)から実施する」ことが明記された。

推進派の論理

財政面の効果
財務省は2025年5月の財政制度等審議会において、OTC類似薬の保険適用除外により年間約3200億円の医療費削減が可能と試算を示した。これは年々増大する国民医療費(2024年度約49兆円)の抑制に寄与するとされる。

セルフメディケーション推進
推進派は「本来軽症で自己対応可能な症状について、必要性の低い受診が医療保険財政を圧迫している」と指摘。セルフケア文化の醸成により、重篤な患者により多くの医療資源を集中できると主張する。

制度設計案
財務省は2つの具体案を提示している。①全面自己負担案(保険給付完全除外)と②選定療養案(薬剤費のみ自己負担、診察料等は保険適用維持)である。現実的には②の選定療養制度活用が有力視されている。

反対派の懸念

医療アクセスの阻害
日本医師会は強い反対姿勢を示し、「軽微に見える症状でも医師の診断により重篤な病気の早期発見につながる場合がある」と主張。受診控えにより疾患の重篤化や合併症発症のリスクが高まるとして、結果的に高額な医療費発生につながる可能性を指摘している。

経済格差の拡大
市販薬は処方薬より価格が高く設定されており、特に低所得者層や慢性疾患患者への負担が重大な問題となる。現在の自己負担は年齢により1〜3割だが、保険適用除外により10割負担となれば、経済的理由による受診控えが健康格差を拡大させる恐れがある。

小児医療への影響
小児科医からは特に強い懸念が示されている。小児は症状の変化が急激で、かつ多くの自治体で医療費助成制度により窓口負担が軽減されているため、OTC類似薬の保険適用除外は制度の根幹を揺るがす可能性がある。

医療現場の反応と今後

日本経済新聞の調査(2025年7月実施)によると、医師の62%がOTC類似薬の保険適用除外に賛成している。ただし、勤務医と開業医で温度差があり、勤務医の7割が賛成する一方、開業医は消極的とされる。社会保険審議会医療保険部会では、OTC類似薬の保険適用除外について反対で一致している。薬剤師会も適正使用の観点から慎重な検討を求めている。

2025年末の予算編成過程までに具体的な対象品目の選定が行われ、2026年度から段階的実施が開始される予定である。ただし、政党間の協議体での検討や、医療関係団体からの強い反対を受けて、実施時期や対象範囲については流動的な状況が続いている。

この論争は単なる医療費削減策を超えて、日本の国民皆保険制度の根幹に関わる重要な政策判断として注目される。セルフメディケーション推進と医療アクセス確保のバランスをいかに図るかが、今後の制度設計の核心となる。

個人的な経験

実は、今回の夏休みでまさに病院に行かない(医療にかかれない)経験をしたので紹介したい。ある医療機関があまり近くにない場所(ある島の人口6000人ほどの村)に、休暇で滞在したところ、海辺で家族が転んで膝にそこそこひどい裂傷を負った。みたところ、すこし汚れがあるので、何度も洗浄し所持していたバンドエイドを張ったうえで、持っていたロキソニンを飲ませて、近くの薬局に行った(写真)。

今回必要な薬剤以外に、かなり充実した品ぞろえであるのに驚いたが、今回はドルマイシン軟膏と創傷保護用のアイテムを購入し、処置した。とりあえず、感染もなく無事であった。

とくにこの薬剤を応援するわけではないが、医療アクセスがいいところであれば、救急外来を受診することもできたであろう。まさに医療アクセスが悪いところでの対応とはこんな形になるのか、言い換えればOTCで代用することに近い経験をしたので報告しておきたい。